目次
プロローグ
今回新たに完乗先に選んだ北陸本線は、滋賀県の米原から石川県の金沢までを結んでおり、全長は176.6kmで駅数は47駅となっている。元々は約2倍の路線長だったが、2013年の北陸新幹線開業に伴い、金沢〜直江津間が第3セクター鉄道に移管された結果、こんなに短くなってしまった。
季節は春という事もあり、沿線の桜を見物がてら起点の米原から長浜までを巡ってみた。
米原
- 所在地 滋賀県米原市米原
- 開業 1889年(明治22年)7月1日
- ホーム 3面6線(在来線)
北陸本線の起点である米原駅に到着したのは、2016年4月7日の午前8時を回ったところだった。ここは東海道本線と東海道新幹線の交わる交通の要衝であり、今はJR西日本とJR東海の境界駅でもある。そのため乗り継ぎのために下車する事は多いのだが、改札から出るのは随分と久しぶりだ。
駅舎は新しい橋上駅舎になっていて新幹線側の西口と在来線側の東口がある。今回は在来線の旅なのだから東口に行ってみると、橋上駅舎への入口となる三角屋根がある程度で駅舎というほどのものはない。以前訪れた時には古い地上駅舎があり佇まいが気に入っていたのだが、その面影すら残されてはいなかった。
駅前にはやたら空き地が目立つと思ったら、ここにかつての下り線ホームや旧駅舎があったという。それらを上り線の近くに移動して現在の姿になったらしい。
一応は西口の方にも行ってみたが、ホテルがあったりタクシーが止まっていたりと、多少の賑やかさはあったが、全体に簡素な雰囲気なのは東口と大差はない。この合理的なデザインと造りの駅舎から、ここは単なる乗り換えのための駅なのだと実感する。
街歩きの前に不要な荷物を収めようとコインロッカーを探すが見当たらない。ない訳がないだろうと右往左往していると改札脇に発見したのだが何と使用停止の紙が貼られていた。米原ほど大きな駅ならコインロッカーなどいくらでもあると思い、ありったけの荷物をホテルから持ってきたものだから呆然としてしまう。
ここは鉄道の要衝ではあれど観光地でもなんでもない小さな町なのだと再び実感しつつ、ないものは仕方がないと傘を取り出し、長旅のバックパッカーと勘違いされそうな重装備で激しい雨の中に繰り出した。
湯谷神社
地図によると東口から少し進んだ先にある山すそに、湯谷公園という名前の公園がある。まずはそこまで行ってみる事にした。
雨だけならしっとりとした雰囲気で好きなのだが、今日は強い雨に加えて風まで吹いているので、あっという間に傘ではカバーできない荷物や靴がベタベタに濡れてしまった。足先からどんどん冷たさが伝わってきてたまったものではない。
風雨と荷物で地図を見るのもままならず適当に見当を付けて歩いていると、湯谷神社という神社の前に出た。これが人気のない雨の中で満開の桜が美しく、そのまま神社の中へと吸い込まれるように足を進めた。
近くにあった案内板を見ると、周囲は桜だけでなく
拝殿の所まで来ると、周囲を山と木々に囲まれているからか風がなくなり、しとしと雨の降る音だけが聞こえてくる。このしっとりした雰囲気がたまらなくよい。
旧米原小学校跡
参拝を済ませて元の道に戻り、さらに先へと進むと正面に古びた木造の建物が見えてきた。いったいなんだろうかと近くまで行くと「旧米原小学校跡」という木造校舎であった。
雨の中に咲く桜が、廃校となった木造校舎と合わさり、どこか寂しげな雰囲気を漂わせている。戦前からある古い校舎のようだが、昭和61年まで使われていたそうで、意外と最近まで現役だったようだ。
校舎の前には二宮金次郎像があるが、トレードマークともいえる薪がない…。もしかしてこれは二宮金次郎ではないのだろうか?
ぼんやりと校舎や桜を眺めていると、歩いてきたおばちゃんに道をたずねられる。旅をしているとなぜだかよく道をたずねられ、地元民にでも見えるのだろうか不思議だ。
当然ながら役に立てることは殆どないのだが、今回は幸いにもさきほど湯谷神社の案内板で見た青岸寺が行き先だったので、多少は役に立つことができた。
近くにあった観光案内図を見ると他にも見所があり、こうして実際に歩いてみると地図では見えなかった物が色々と見えてくる。案内図を見ていると駅名は「まいばら」だが地名は「まいはら」と濁らないことに気がついた。どうしてこうなったのか不思議だ。
校舎周辺をウロウロしている怪しい奴が居るせいか、先程からこちらを伺うようにして同じ車が行ったり来たりしているのが気になる。元々の目的地であった湯谷公園には行っていないけど、思いがけず美しい桜のある景色を楽しむことができて満足したので駅に引き返す。公園はまあまた今度かな。
米原駅から乗車する列車は、はるばる兵庫県の播州赤穂からやってきた長浜行きの3426Mだ。ここ米原では前寄りの4両が切り離され、残りが長浜行きとなる。
坂田
- 所在地 滋賀県米原市宇賀野
- 開業 1931年(昭和6年)9月15日
- ホーム 2面2線
乗車して一息ついたのもつかの間、すぐに本日2駅目である坂田に到着する。駅舎とは反対側の下り線ホームに降りたが、乗車券のチェックも回収もなく、それで大丈夫なのか。ホームからは駅裏にある道路に直接出る事ができ、駅舎側へは地下道を使って移動する。
新しくきれいな駅舎に入ってみると、大きなテーブルのある待合室になっているが、雨降りで照明も点いていないので何とも暗い。一緒に下車した2人連れが、何やら言い争っていた事もあり早々と退散した。駅舎は「近江母の郷コミュニティハウス」になっているそうで、奥には人の気配もしたが一体何をしている所なのか。
坂田神明宮
駅の周囲を見回しても、これといって何も見当たらない。まあ行けば何かあるだろうと折り畳み傘を開き、適当に長浜方向へと向かった。
駅のすぐ隣には郵便局があり、線路を挟んで桜が見えているので、近くにある小さな踏切に向かう。歩行者専用の踏切だが、最近整備されたばかりのようで、真っ白なコンクリートにピカピカの手すりが設置されている。渡り終えると、そこはもう坂田神明宮の境内で、神社の参道の一部といった踏切だったようだ。
ここも雨音の響くしっとりとした境内に一人きりと、先程の湯谷神社と同じような雰囲気で落ち着く。
参拝を終えるとそのまま駅裏から坂田駅に戻り、ちょうど一回りしてきた形になった。駅の表側はパラパラと住宅がある程度だったが、裏側は田畑が広がるのどかな場所である。
雨も激しいのでそのままホームで次の列車を待つことにした。しばらくして特急列車が通過していったが、ホームが狭すぎて怖いものがある。次の列車は近江塩津行きの3432Mで、車内は結構混雑していた。まあすぐ下車するのでドア横に立っていく。
田村
- 所在地 滋賀県長浜市田村町南仙堂
- 開業 1931年(昭和6年)10月14日
- ホーム 2面2線
田村駅に到着すると予想外に沢山の下車客がある。そして大半の乗客がそのまま駅裏に出ていき、これは一体どういう事かと思ったら、駅裏にある長浜バイオ大学の学生だったようだ。駅の近くに大学があるというだけで、こんなに利用者が居るのかという感じ。それにしても、ここでも下車時の切符類のチェックはなく、坂田での乗車時もノーチェックだし何というザルだろうか。
列車から降りると、古びたホーム上屋に木造のベンチが目に留まる。周囲を見回すと、何やら駅全体が古びた雰囲気を持っており、これはなかなか面白そうな駅である事に気がつく。
続々と駅裏に出て行くから、つられるようにして駅裏に出てみる。こちら側の出入口は近年設置されたようで、プレハブ小屋のような新しく簡素な建物になっている。駅前に出ると周囲には、長浜バイオ大学や長浜ドームといった近代的で大きな建物がある以外は、何もない広々とした空間が広がっていた。古びた駅施設とは対照的な光景だ。
一旦駅へと戻り構内を見て回る。レールを使った骨組みに木製の壁やベンチと、時が止まったかのような駅である。
やたらと広い構内は、かつてこの駅が北陸本線の交流電化の起点で、機関車交換をしていた名残りである。上下線の間に2本の機関車留置線があったので、上下線の間がえらく離れていたり、全列車が停車する関係で14両編成でも収まる長いホームになっている。
残っている木造の設備も、そんな賑わっていた当時からの物なのだろう、相当に年季が入っている。
跨線橋はレールと木材を使った味のある造りだ。それだけなら古い跨線橋にはよくみられるのだが、4本の線路を超える長さのためか下回りだけは丈夫そうな鋼橋になっているのが珍しい。
駅舎も構内と同じく昭和の空気を残しており、眺める分には非常に良い駅舎だ。駅舎内には何やら小さな窓口があり「ただいま駐輪場の管理人室に居ます」の文字がある。無人駅だと思ったが、何か駅業務もやっているのかね?
上り線ホームにも行ってみると木造の古びた待合室があり、中には木製ベンチや誰が置いたのか座布団が置かれている。子供の頃は近所の駅でも普通にこういう待合室はあったけど、今ではことごとく取り壊されてしまったので懐かしくなってしまった。
さいかち浜水泳場
この駅を見て歩いていると楽しくなり、気がつけば30分も経過していた。これでは駅だけで終わってしまいそうなので、徒歩数分と至近距離にある琵琶湖の方へ行ってみる事にする。
琵琶湖へは駅の裏口から出た方が近そうなので、再び駅裏に向かい傘を差して歩き出す。長浜バイオ大学の脇を通って行くと、歩道沿いに並んだ桜が満開で美しかった。
大学を過ぎると交通量の多い道路が現れ、水しぶきを上げながら次々と車が通り過ぎていく。横断歩道の押しボタンを押して、湖岸に並ぶ木々の隙間から見える湖面を眺めつつ、信号が青に変わるのを待った。
辿り着いたこの場所は「さいかち浜水泳場」という名前で、海水浴場ではなく水泳場という響きが何だか新鮮だ。夏場はきっと賑わうのだろうが、この肌寒い季節、しかも雨降りとあっては人っ子一人居ない。
湖面は灰色をしており冬の日本海のような色だ。しかし日本海とは対照的にとても穏やかで、波らしい波もなくべったりとしている。湖面には打ち付ける雨で一面に小さな水紋が広がっていた。
雨音の響く静かな浜をゆっくりと散歩する。屋根付きの休憩所やベンチも置かれていて、天気が良ければここに座ってまったり出来そうな場所だ。雨に濡れる満開の桜や足元のヒヤシンスもしっとりとして美しい。
こういう草地は雨の日に歩き回ると、あっという間に靴が大変な事になるので慎重に歩く。とはいってもやっぱりベタベタになって来る訳で、あまり酷い事にならない内に駅へと引き返した。
次の列車は長浜行きの3444Mで、さすがにこの時間から隣の長浜に行く人はおらず、乗車したのは自分1人だけだった。
長浜
- 所在地 滋賀県長浜市北船町
- 開業 1882年(明治15年)3月10日
- ホーム 2面4線
時の止まった田村駅から僅か数分で、近代的で賑やかな長浜駅に到着する。この駅舎は一見すると地上駅に見えるが、実はホームの上に乗っかった橋上駅舎になっている。明治時代の石造りだった初代駅舎を模したデザインになっていて、同じ橋上駅舎である米原駅の素っ気ないデザインとは対照的だ。
橋上部分にはデッキが設けられており外に出る事もできる。
駅舎の中には、待合室・売店・みどりの券売機・観光案内所と、駅で欲しいものが一式コンパクトにまとまっている。米原駅で困ったコインロッカーも、観光案内所の隣に沢山設置されていた。
特に困る事のなさそうな駅に思えたが、トイレが改札外にしかないそうで、一筆書き乗車の人が改札から出してもらっていた。
以前に来た時は3代目の旧駅舎で、何の変哲もない地上駅だった記憶があり、なんだか別な駅に来たような変わりようである。
長浜鉄道スクエア
長浜は観光地らしく見所が沢山あり迷う所だが、まずは駅のすぐ脇にある長浜鉄道スクエアに向かう。長浜鉄道スクエアは、現存最古の駅舎である初代長浜駅舎や、長浜鉄道文化館、北陸線電化記念館という3つの施設の総称で、様々な鉄道資料が展示保存されている。
実はこの場所には20年程前に一度訪れた事があり、当時はまだ初代長浜駅舎しかなく、名前も確か長浜鉄道資料館という今よりずっと小規模な施設だった気がする。しかし展示内容はまったく記憶になく、丁度いい機会なので再訪してみる事となった。
長浜駅からは僅か数百メートルの距離にあり、徒歩数分にして風格ある初代長浜駅舎の前へとやってきた。
受付はこの駅舎の入った所にあるが、既にその手前からトンネルの
初代駅舎に入り、受付のおばちゃんに入館料300円を支払い奥へと進む。暗く冷たい雨の中を歩いてきたので、木材を多用した暖かみのある造りの館内にホッとする。さらにお客は自分1人だけだったので、微かに雨音の聞こえる静かな中を、ゆっくりと展示物を見て回る事ができた。
3つある施設のうち、まずは長浜鉄道文化館に行ってみると、真島満秀氏の写真展が行われていた。美しい鉄道写真が並び見応えがあり、昔雑誌で見たことのある作品も混じっており懐かしい。
この施設には長浜における鉄道の歴史が詳しく紹介されていて、実に興味深い展示となっている。昔はこういう歴史や資料とか素通り状態だったが、最近はやたら面白く見入ってしまうようになってしまった。
続いてやってきた北陸線電化記念館の方は、ED70とD51の実車が展示されていて、運転室内にも立ち入る事もできた。SLの保存はあちこちにあるけど、電気機関車というのは数少ないから、ED70の方に釘付けである。
そうしていると、ようやく次のお客が来たようで、賑やかな声が聞こえてきた。それを合図のようにして最後の長浜駅舎に移動する。ここは当時の駅の様子などが再現されていた。
思っていた以上に充実した施設で、1時間位はあっという間に過ぎてしまい、これで300円とは十分に元が取れた。
長浜城(豊公園)
次は今回の目的の1つである桜を見るべく長浜城(
数分も歩くと桜に囲まれた城に到着して、入り口の車止めには何やら見覚えのある雀が…。これは江ノ電の旅でタイトル画像に使った、江ノ島駅前の雀と同じタイプではないか。
桜並木の中を歩いて行くとすぐに長浜城に到着する、近くで見ると近代的な鉄筋コンクリートの建物である事がわかる。まあ折角ここまで来たことだし中にも入ってみる事にした。
内部は普通のビルの中にでも居るような造りだが、おかげで暖房がしっかり利いているので、冷えた体を暖めるには丁度良い。ひな人形や曳山についての企画展をやっており、観光客の姿もまばらな事もあり、体を暖めつつゆっくりと見て歩いた。
1階、また1階と展示を眺めつつ上がっていき、最後に最上階の展望台に到着。眼下に広がる桜の絨毯に、琵琶湖が広がり景色は最高だ。しかし開放的な場所だけに、風雨の今日は雨が吹き込んできてたまらない。
ちょうど琵琶湖とは反対側から雨が吹きつけているので、琵琶湖を見る分には濡れる事がなかったのは幸いだった。
黒壁スクエア
長浜も十分満喫したし、次の虎姫駅に向かおうかどうしようか迷う。次の虎姫駅では桜の名所である虎御前山に行ってみようと思っていたので、この雨の中を山に向かうのはどうよと思わず考えてしまう。
結局今日は長浜までにしておく事にして、時間もある事だし黒壁スクエアに向かってみる事にした。線路を越えて今までとは反対側の、駅の表側にやってくると、周囲にはそこらかしこに黒壁の建物が並んでおり、なかなかといい雰囲気の所だ。これで電線がなければもっと景観が映えるだけに惜しい所だ。
今日はまだ名物らしいものを食べていないので何かないかと探して歩くが、手軽に食べれそうな物というのが見当たらない。そのまま駅近くまで戻ってきたところで、近江牛バーガーやカレーパンが有名というパン屋が目に留まった。これしかないと両方購入して、おまけにチーズパンまで買って駅に向かった。
エピローグ
本日最後の列車は播州赤穂行きの新快速で、ホームに向かうと始発駅という事もあってかガラガラなのがありがたい。
貸し切りの先頭車両に陣取り、先程の近江牛バーガーを食べつつ帰途についた。今日はとにかくどこへ行っても歩き回っていたので、やっとで一息ついた感じがする。最後まで雨が降っていたが、それはそれで印象深い旅となった。
(2016/4/7)
コメント