北陸本線 全線全駅完乗の旅 2日目(長浜〜河毛)

旅の地図。

目次

プロローグ

路線図(プロローグ)。

2016年4月9日、長浜駅にやってきたのは午前8時を少し回ったところだった。前日の土砂降りから一転して、雲ひとつない青空が広がり心地よい。

まずは不要な荷物を置いていこうとコインロッカーに向かう。素早く荷物を収めてさあ鍵を閉めようと思ったら小銭がない。小銭を作ろうにも万札しか手持ちがなく、これを崩すのに売店で100円程度の買い物も気が引けるので、券売機で入場券を購入して小銭を手に入れた。何とも冴えないスタートとなってしまった。

最初に向かうのは隣りの虎姫駅で、発車案内板を見ると敦賀行きの普通列車に乗れば良さそう。ホームに降りると既に入線していて、取り急ぎ4両編成の先頭車両に乗り込む。車内は空いているというほどでもないが、混雑しているというほどでもない。程よい空き具合で手近な席に腰を下ろした。

長浜駅で発車を待つ、普通列車の敦賀行き 133M。

長浜から先の区間に乗車するのは随分と久しぶりで懐かしさを感じる。最後に乗車したのは金沢発の長浜行きという長距離鈍行だった気がする。少し前の北陸本線にはこのくらいの距離を走る普通列車はたくさんあり、国鉄型車両のボックス席でのんびりと乗り通すのが気に入っていた。それを楽しむだめだけに北陸経由で移動したくらいであった。

するすると発車すると住宅と農地の広がる平野を進んでいく。以前は長浜までが直流電化でこれより先は交流電化だったため、この辺りにデッドセクションがあり、夜に通過すると車内が真っ暗になったことを思い出していると虎姫駅に到着した。

虎姫とらひめ

  • 所在地 滋賀県長浜市大寺町細田
  • 開業 1902年(明治35年)6月1日
  • ホーム 2面2線
路線図(虎姫)。
虎姫駅舎。
虎姫駅舎

琵琶湖沿いに広がる平野の中にある駅で、駅前こそ住宅や商店が並んでいるが、駅裏には広大な農地が広がっていた。これから作付けをするのか大半の畑は雑草と菜の花に占領された状態だった。乗降客は少なくのどかな雰囲気が漂い、開業から百年以上も経過した幹線の駅とは思えないほどである。

構内は2面2線の簡単な構造をしているが、上下線の間にはもう1本線路があったらしき空き地がある。レールと木材で作られた年季の入った跨線橋を渡り、向かった駅舎は木材を多用したきれいな姿をしていて、建て替えられてそうは経過してなさそうだ。委託駅のため窓口があり駅員の姿も見られる。

駅舎の半分は店舗スペースのようになっていて、何の店だろうかと締め切られたドア越しに覗き込むと、薄暗い室内はガラーンとしていて長らく使用していない様子だった。

待合室。
待合室

駅名にあやかってか駅舎の中から駅前まで、いたる所に虎が潜んでいて、虎の置物から虎明神なる祠、それに虎の口から水が流れ出ている虎の力水なるものまである。関西で虎とくれば当然ながら阪神グッズも目につき、虎づくしの虎姫駅であった。

虎御前山

ここでは桜の名所という虎御前山に向かうことにした。大体の方向だけ確認すると後は適当に歩きやすそうな道を選んで歩いて行く。前方には中年男性が1人歩いていて、同じ目的らしくどこまで進んでも視界から消えることがない。駅近くの小川沿いにある桜並木は満開で、開花のタイミング的にはちょうど良い日に訪れたらしい。

10分ほど進むと田川という名前の河川に出た。堤防上に続く砂利道を歩くと、土手には満開の菜の花が密集していて眩しいほど鮮やかだった。この辺りは右を見ても左を見ても、快晴の青空に満開の桜と菜の花が視界に飛び込んできて、春爛漫という言葉を絵にしたような景色が広がっていた。

行楽日和ではあるがあまりにも天気が良すぎて、歩いていると徐々に汗が滲んできた。何だかもう春を通り越して初夏を思わせる空気であった。

田川沿いの桜。
田川沿いの桜

虎御前山の近くまでやってくると無数の桜に囲まれた公園があり、虎御前山登山口と書かれたのぼりが立っていた。園内には近所の方らしき親子連れが1組遊んでいるだけで、花見に訪れるような人の姿もなく穏やかな時間が流れていた。

桜並木に囲まれた緩やかな坂道を足取り軽く上がっていく。途中には神仏習合の名残りか大きな鐘楼のある矢合やあい神社があり、境内で少し休憩していると通り過ぎたり同じように休憩するハイカーをよく見かける。この山はハイキングコースとして人気があるのだろうか。

桜のなかを虎御前山に上がっていく。
虎御前山に上がっていく

神社を過ぎると桜並木は途切れ、しばらくは木々に囲まれた道路が続く。やがて左手が開けてきて、眼下に広々とした田園地帯が広がり、その中を突っ切るように走る北陸本線の列車が走り抜けていく姿が見えた。かなり距離はあるけどガタゴトと音まで伝わってくる。琵琶湖も見えるかと思ったけど見えそうで見えない。

近くには作られて間がなさそうな、きれいな展望台がある。周囲を鉄塔や木々に囲まれて、見るからに眺めが悪そうな感じがするが、来たからには上がらねばと一応上がってみた。すると河毛方面はまだ良いのだが、反対側は案の定にあまりパッとしない眺めであった。

虎御前山から眺める北陸本線。
虎御前山から眺める北陸本線

この辺りまでにして引き返そうか迷ったが、まだ先にちらほらと桜の木が見えるので、もう少しだけ進んで見ることにする。

岩屋寺の前を通り階段を上がると良く整備された広々とした場所に出た。ここが丹波長政陣地跡だそうである。ちょっとした休憩場所がありベンチにはリュックが置かれていたが、周囲に人の気配はまったくなく、持ち主はどこへ消えてしまったのだろうか。

この先にもまだ陣地跡等の史跡が続くようだが、これ以上行くと河毛まで行ってしまいそうだし、次の電車の事もあるので今度こそ引き返す事にした。

丹羽長秀陣地跡。
丹羽長秀陣地跡

虎御前山からは下り坂ということもあり小走りに虎姫の街まで戻ってくる。行きは線路沿いの小道を歩いて通らなかったので、帰りは虎姫駅前を横切る商店街を通り抜けていく。

途中に多賀食料品店という営業中の店があり立ち寄ると、店内はどこにでもありそうな小さな食料品店といった感じだ。その入口脇には虎姫名物と銘打たれた「虎せんべい」なるものが販売されているのが目を引く。ここは駅に山に商店にと、どこに行っても虎が付いて回る所だ。せっかくだし土産用に1つ買ってみると、お店の人が話しかけてきて、その内容から阪神ファンと勘違いされているようだった。

虎せんべい。
虎せんべい

虎御前山まで桜を見に行ってきたという話から、店のおっちゃんが近くにものすごい桜並木があり、ぜひ見せたいからと親切にも車まで出してくれた。

色々とおっちゃんの話しを聞きながら、やってきたのが近くを流れる高時川の堤防で、堤防道路の両側に大きな桜並木がこれでもかと並んでいた。数は多くても桜の木自体が小さくて、本数から想像するほどには大したことのない桜名所もあるのだが、ここは数が多いだけならず桜自体もとても大きいため、見事としかいいようのない光景だった。

高時川堤防の桜。
高時川堤防の桜

堤防上をひと通り走り回ってから、多賀食料品店の前まで連れて来てもらって別れた。面白いおっちゃんと自分で言うだけあり実に面白い人だった。虎せんべいを手にしたことから、予想もしない思いがけない展開となってしまった。

虎姫駅に戻ると下り列車の時刻を確認してからホームへと向かう。窓口はあるのだが乗車券の販売だけで、改札業務はやっていないようなので勝手に入場する。再び古びた跨線橋を渡ると、後はのんびりと駅構内や駅裏に広がる農地を眺めて列車を待った。

しばらくして列車の時刻になるが来ないので、おかしいなあと思っていると、3分程遅れて近江塩津行きの普通列車がやってきた。3分とか僅かなようでいて、実際に待っていると結構長く感じてしまう。

虎姫駅に入線する、普通列車の近江塩津行き 3232M。
普通 近江塩津行き 3232M

河毛かわけ

  • 所在地 滋賀県長浜市湖北町山脇
  • 開業 1954年(昭和29年)8月1日
  • ホーム 2面2線
路線図(河毛)。
河毛駅舎とコミュニティバス
河毛駅舎とコミュニティバス

天気の良い土曜日とあってか、結構な数の行楽客と一緒に下車する。この辺りの駅は簡易委託駅が多いが、委託駅員も車掌も切符の回収もチェックもしないので、乗る時も降りる時も完全にノーチェックだ。それで大丈夫なのか、こちらの方が心配してしまう。

下車したのは駅舎とは反対側にある下り線のホームなのだが、こちら側にはホームに接して駐車場がある以外は、田畑の広がるのどかな景色になっている。とりあえず駅舎の方に行こうと思うが、跨線橋や地下道といった設備は何もなく、駅に隣接する道路の踏切を横断して、上下線を行き来する簡易な構造になっていた。

河毛駅構内
河毛駅構内

駅前にやってくるとコミュニティバスが2台待機しており、ちゃんと列車と接続しているようなので、これを利用しての観光も良さそうだ。

まずは駅舎に入ってみると、簡易委託駅になっているのだが、観光案内所・レンタサイクル・コインロッカー・休憩所・物品販売と何でもござれといった様相で、賑やかな事になっている。設置されているパンフレットを見ていたら、先程の虎姫駅にもレンタサイクルがあるらしいのだが、それは全然気が付かなかったな。

河毛駅待合室 (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
河毛駅待合室

時間があればコミュニティバスやレンタサイクルを利用して、小谷城跡辺りに行くのが面白そうに思える。今回は残念ながら時間がなかったので、駅周辺の散策を楽しむ事にした。

高時川の福橋

駅舎側には河毛の集落が広がっているのだが、農地を挟んで高時川の川沿いに桜並木が見えている事もあり、あえて駅裏の方へと向かった。

数分も歩けばもう高時川の堤防上に出た。広い河川敷には畑やグラウンドが広がっていて、あちこちから農作業の話し声や、子供達の遊ぶ声が聞こえてくる。下流側には何だか古そうなトラス橋が見えて、引き寄せられるように足を進める。

高時川にかかる福橋
高時川にかかる福橋

やってきたトラス橋は、福橋ふくばしという名前で、上流の新しい橋が出来てからは、歩行者専用として利用されているようだ。後で調べたらこのトラス橋は昭和8年竣工と、結構歴史のある橋だった。

福橋の親柱
福橋の親柱

折角なので対岸まで往復してから駅へと引き返す。道端にはチューリップや菜の花が満開で実に色鮮やか。そして何より5月頃のイメージがある、チューリップがもうこんなに咲いている事に驚いた。

色とりどりの道路端

 

菜の花とミツバチ

福橋から少し駅の方へ戻った所には、河毛農村公園という公園があった。ここにも沢山の桜が咲き誇っており美しいのだが、家族連れが1組居る程度の静かな公園だった。

X-T1 + XF16mm F1.4R

さらに公園から駅方向へと続く道路は、両側が桜並木になっていて見事なものである。虎姫のおっちゃんが、この辺りは桜はどこにでもあると言っていたが、ホントこの辺りはどこへ行っても桜だらけ。人も分散するのか、全然人が居なくて静かなのもまた良い。

河毛駅近くの桜並木
河毛駅近くの桜並木

河毛はどこへ行っても色鮮やかで、その静けさと相まって実にのんびりとした散歩になった。ゆったりと桜を楽しむにはいい場所かもしれない。

駅に戻ってくると12時を少し回った所で、次の高月に行くかどうするか迷う。考えてはみるが、この後の予定が押している事から、高月が時間がたっぷり欲しくなる面白い街だと、楽しんでいる時間がなくて勿体無いので、結局ここまでにして引き返す事にした。

まもなくやってきた姫路行きの新快速に乗車する。

姫路行き 3263M
姫路行き 3263M

エピローグ

完乗状況の路線図

再び長浜まで戻ってきて、これで北陸本線の米原〜河毛間が完乗となった。

長浜駅 西口
長浜駅 西口

(2016年4月9日)

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