2024年4月13日、天気がいいので御嶽山の眺望に秀でた白草山に向かうことにした。岐阜県下呂市と長野県王滝村にまたがる標高1,631mの山である。
登山道は乗政コース・御厩野コース・鞍掛峠コースと3つあり、いずれも下呂市からアクセスすることになる。私はそのすべてを歩いたことがあるが、乗政は見どころが多くて整備も行き届いた活気あるコース、御厩野は地味で訪れる人の少ない静寂のコース、鞍掛峠は自然にかえりつつある藪漕ぎコースという感じであった。今回は乗政登山口までの林道が通行止めの可能性があったのと、もっとも短距離で手軽ということから御厩野コースを選択した。
ふもとの御厩野集落から細々とした道路で山懐に入っていき、やがて小石の散乱する荒れた道になると、間もなく御厩野登山口に到着。
熊出没注意の文字を横目に登山道に入り、急斜面かつ眺望のないヒノキの植林地を、右に左に折れながら登っていく。早々と息が乱れて汗が浮かぶ。
誰が管理しているのか笹の刈り払いはしてあるし、山頂までの距離を記した標識がそこかしこに立てられている。標識には新しいものから朽ちかけたものまであり、長年にわたり登山道として維持管理がなされてきたことが察せられる。
わずかにアセビの花があるほかは変化に乏しいヒノキ林を1kmほど登ったところに、数少ない展望地のひとつがあり、休憩がてらしばし眺めを楽しむ。重畳と連なる名も知らぬ山々に囲まれた、ふもとの御厩野集落がよくみえる。このあたりには炭焼きの痕跡がいくつもあり、往来が少ないのによく踏まれた道なのは、仕事の道であった名残りなのかもしれない。
相変わらずつづくヒノキ林のなかに家のように大きな岩がある。昔はここに天狗岩と記された朽ちかけの案内板があったような記憶があるのだが、朽ち果ててしまったのかそれらしいものは見当たらない。この岩には容易に上がることができて、ちょっとした展望地であった時代もあるのだろうけど、いまは成長したヒノキに囲まれているためたいした眺望はない。
この山は上に行くほど傾斜が緩やかになり、上に行くほど木々のまばらな笹原なっていく。平坦であるため水が溜まりやすいのか、山頂まであと1kmもないような高いところなのに水場まである。
県境になっている稜線上までくると鞍掛峠からの登山道と合流する。鞍掛峠と記された標識が立てられているけど、数年前に歩いてみたところ身動きが取れないほどの深い笹薮に埋もれていて、半ば廃道のようなところであった。
この合流点には荒廃した避難小屋と仮設トイレもあったのだが、忽然と消えていて四角い空き地だけが残されていた。立ち入ることも危ないような状態だったから撤去されたのだろうけど、あまりにきれいさっぱり消えているので驚いてしまった。内部には錆びついたフライパンやスコップといった道具類のほか、昭和50年代の日付が並ぶ登山ノートがあったのだが、この山の貴重な記録でもあったあのノートはどうなってしまったのかと思う。
避難小屋跡からしばらくは笹薮や倒木が酷いところがあり、なぜここだけ荒れているのかと疑問を感じながら通り抜けると、これまで隠れていた東側が大きく開けて御嶽山が姿を表した。雪をいただいた荒々しい山上部を広大な裾野が取り巻く、三千メートル級の独立峰らしい雄大な姿はいつみても見事なものである。御厩野コースにおける最大の景勝地ともいえるここでしばらく足を休めていく。
最後に笹の繁茂する山肌をひと登りすると、乗政コースからきた人たちで賑やかな山頂に出た。一帯は視界を遮るような木がほとんどない笹原が広がるため、御嶽山だけでなく乗鞍岳や白山までも目にできる、素晴らしい展望地となっている。広々としているので大勢が同時に休めるのもいいところで、あちこちに眺めを楽しんだり食事をとったり、なかには昼寝をしている人の姿もあった。
ひとしきり眺めを楽しんだら、適当なところに腰を下ろしてカップラーメンをすすり、来た道を足早に下っていく。山頂ではたくさんの人に出会ったけど、御厩野コース上では最後まで誰にも出会うことはなかった。
(2024年4月13日)
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