2023年1月1日、名古屋駅前の安宿を出たのは午前5時をまわったところだった。晴れているのか曇っているのかすら判然としない暗い空、灯りのまばらなビル群、往来まばらでひっそりした大通り、街にはまだ深夜の雰囲気が漂っていた。
元日に早起きしたのは毎年恒例となっている初日の出を迎えるためだ。目的地は鼓ヶ浦とよばれる海岸で、三重県の四日市と津の中間あたりに位置している。鼓ヶ浦にしたのは大晦日に名古屋に滞在していたからで、早朝の名古屋から公共交通機関のみで手軽に行ける適地としてなんとなく決めた。
向かった名古屋駅から地下にある近鉄名古屋駅に下り、5時30分発の鳥羽行き急行列車に乗り込む。休日早朝だから空いているかと思ったけど、初詣に向かう人たちだろうか、6両も連ねていたけど座席は半分以上が埋まっていた。
定刻通りに動きはじめた列車は、車窓に街明かりを流しながら快調に飛ばし、ものの15分ほどで木曽川を越えて三重県に入った。桑名に富田と停車するごとにまとまった乗客を拾い、四日市の辺りからは立ち客も出はじめた。
急行は肝心の鼓ヶ浦に停車しないので、6時18分にひと駅手前の白子で下車、同じホームの反対側に停車中の普通列車に乗り換える。座席は半分ほどが埋まっている程度で座れないことはないけど、すぐ降りるのでドア脇に立っていく。
急行を追いかけるように動き出した列車は、わずか1分ほどで鼓ヶ浦に到着。同じ目的と思われる10人ほどの若者と降り立った。普通列車しか止まらない無人駅ながら、海水浴客のために急行列車が発着していた時代もあるそうで、大柄な木造駅舎が往時の賑わいを偲ばせる。
駅前に出ると白みはじめた空と街灯に照らされた閑静な住宅地が広がっていた。一緒に降りた若者たちを追いかけるように家並みに分け入っていく。どこからともなく近隣の老若男女が合流してきて進むほどに人が増えていく。行く手の空は刻々と明るくなっていて、まだ30分以上も時間があると分かってはいても気が焦る。
歩くこと10分ほどで松林を従えた広い砂浜に出た。日本の白砂青松百選にも選ばれた鼓ヶ浦である。夏場には海水浴場にもなるだけに大きな監視塔が立っていて、赤く染まりはじめた空に美しくシルエットを描いている。雲の具合だけが心配だったけど、見晴るかす水平線に妨害するようなものはなくて安堵した。
到着時は広大な砂浜全体に散らばる程度の人出だったが、明るくなるにつれ湧き出すように増えていき、気づけば波打ち際に人垣ができていた。どんどん人が増えていくので、鑑賞にいい場所も刻々と変化していき、前後左右と移動していると水平線から光があふれ出した。
(2023年1月1日)
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