2018年1月1日、元日の早朝4時、三重県の亀山市内にある宿で目を覚ました。カーテンを開けて星が出ているのを確認したら、眠気をこらえつつ急いで支度を済ませる。
冷たい空気で徐々に目を覚ましながら亀山駅までやってきて、始発の名古屋行き普通列車に乗り込む。目的地は隣接する鈴鹿市にある千代崎海岸だ。訪れたことはないが地図で確認する限り初日の出には絶好の立地にある。
この海岸に決まるまでは紆余曲折あり、もう何年も海から昇る初日の出を見た記憶がないので、今回は海に向かおうと考えたことから始まった。ところが今年の元日は全国的に曇りがちで、頼みの天気予報も日々変化するため、それに合わせて目的地は東京から鹿児島まで変更を繰り返した。そして最終的に晴れそうなのは三重県と高知県くらいとなり、その後の予定との兼ね合いから三重県北部に向かうことにした。なかでも駅から近くて東側が開けた海岸を探した結果、千代崎海岸に決定した。
4時54分、わずかな乗客を載せた列車は滑るように動きはじめた。向かうは千代崎海岸の最寄りとなる千代崎駅だ。問題はそれがJRではなく近鉄の駅ということで、どこかで近鉄線に乗り換えなければならない。そこで20分ほどで到着した四日市で下車、近くにある近鉄四日市駅まで歩き、近鉄線の列車に乗りこんだ。
近鉄線の車内は当初こそ空いていたが、初詣にでも向かうのか、ひと駅ごとに乗客が増えていき、ついには立ち客まで出るような状態になった。
そして千代崎に到着すると20〜30人が一斉に降り立った。どうやら目的は同じらしく駅を出ると続々と海に向けて去っていく。空はまだ暗闇に包まれ時間には余裕があるので、それを見送ってからゆっくりと改札に向かった。無人駅ながら自動改札があり、切符が通らないらしくあたふたしている人が取り残されていた。
駅前の狭い通りは海岸に向かう人々で賑わっていた。家族や友人同士といった様子の数人ずつの固まりが、少しずつ距離を置きながら延々と続く。遠くから歩いてきたらしき格好をした中高年団体も見かけた。向こうで祭りでも開催されているかのような光景だ。途中にある駐車場では交通整理までしていた。
徐々に白みはじめた空に急かされながら海岸に出ると、視界いっぱいに薄明かりに照らされた海が広がった。海の向こうにある知多半島の方向は早くも赤みがかり、空港だろうか点々と規則正しく照明が並んでいた。夜と朝のちょうど中間といった眺めだった。
砂浜では焚き火をしていて火事かと思うほどの巨大な火柱が上がり、風に煽られた炎が唸りを上げながら火の粉を撒き散らしていた。焚き火の風上には遠巻きに人々が取り囲み、全身を真っ赤に染めながら暖を取っていた。近づいてみるとかなりの距離を置いても全身が温まり、直視すると目が痛いくらいの熱と眩しさを感じた。
明るさが増すほどに人が増えてきたが、海岸は広いのでさして混雑という感じはなく、思い思いの場所でくつろいでいられた。ざわめきと波音の中を静かに待っていると、沖合にごう音を立てながらジェットスキーが集まってきた。彼らもまた日の出を見に来たらしい。騒々しさに参ったが少しするとアザラシのごとく浮かんでいるだけになった。しかし海は広いのになぜまたこんな人の多い場所の沖合にくるのだろうか。
そして7時2分いよいよ太陽が顔を出した。今年も始まったことを実感すると同時に、なんともいえない清々しさを感じる瞬間である。ざっと数百人は集まってそうな人々は歓声を上げる人から黙って見つめる人まで様々だ。数分の間はそこかしこでシャッター音が響いていた。
初日の出は確実に見ようと思うと、天気予報に相談しつつ年末ぎりぎりまで旅程が決められない弊害があるが、恐らく来年も再来年もこうして初日の出を眺めていると思う。
波打ち際から堤防上まで場所を変えながら太陽を眺めて歩く。時間の経過と共に少しずつ周囲からは人が姿を消していき、いよいよ太陽が直視できないほど眩しくなってきたところで私も駅に向かった。
(2018年1月1日)
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