七里ヶ浜で迎えた「2019年」初日の出

毎年12月になると初日の出をどこで迎えようか思い悩む。2018年の12月も例に漏れずあれこれ考えていた。移動は公共交通機関なので駅近くがいい。山頂からの御来光は魅力的だけど凍える狭い山頂で混み合う状況を想像すると広い海辺がいい。大晦日は都内にいるので終夜運転の列車でたどりつけるところがいい。そんなことを考えていると2019年の初日の出は、自ずと東京湾から相模湾沿岸に決まってきた。

具体的な場所は、終夜運転のある海沿い路線ということで、横須賀線・京葉線・りんかい線を軸に考える。房総や伊豆方面に向かう初日の出列車なる便利なものもあるが、直前に目的地を決める私には全車指定席という時点で縁がない。直前まで天気予報と地図を睨みながら出した結論は、江ノ電が終夜運転をしていて駅から海へのアクセスも良いことから、横須賀線と江ノ電を乗り継いでの江の島となった。

そして迎えた2019年の元旦、普段なら電車の走らぬ深夜の横須賀線にうとうとしながら揺られ、大勢が降りる気配で目覚めた鎌倉駅で慌てて下車した。夜明けまで時間はたっぷりあるので鶴岡八幡宮で初詣を済ませてから混雑する江ノ電に乗車、目的の江ノ島駅に降り立ったのは午前4時半のことだった。

日の出は6時50分なので2時間以上もある。江ノ島駅から先を深く考えていなかったが、とりあえず江の島に渡ることにして、島の裏側で視界いっぱいに海の広がる、江の島岩屋の辺りを目指してみることにした。

駅から江の島にかけての通りは早朝とは思えないほど人通りが多い。大部分は江島神社に初詣に向かう人たちのようだ。寒さから逃れるように黙々と足早に行き交っている。参道沿いまでくると饅頭や豚汁の温かそうな湯気に足を止める人も増えてくる。人の流れに乗るように一気に江島神社の鳥居までやってきたが、橙色に灯る提灯が頭上を泳ぐように並ぶ情景に思わず足が止まった。

江島神社からは島の裏側に出るべく薄暗い階段を上がっていく。途中には三脚に据えたカメラをいくつも見かける。初日の出を撮影しようという人たちに違いない。ここでカメラの向いてる方向が私の思い描いている方向と違うことに気がついた。島の手前側で待ち構えているということは裏側に行ったらどうなるのだろう。嫌な予感しかしない。

今さらながら地図で方角を調べると思っていたのと微妙に違う。岩屋あたりの海辺はどちらかというと西側なのだ。海辺に広がる岩礁の先端あたりなら東側を見通せそうではあるが、島に遮られそうでもある。強行して見えなかったら間抜けなので急遽中止と相成った。

どうしたものか時刻は既に5時を回っていて大きく場所を変えることはできない。かといって周りで良さそうなところは既に三脚が据えてあるし、島内を当てもなく探し回っている余裕すらない。こうなれば開けた海岸に行くしかない。この辺りで駅近くとなれば七里ヶ浜だ。慌ただしく江ノ島駅に戻り、タイミングよくやってきた列車に乗り込んだ。

問題はどこで降りるかで、七里ヶ浜沿いには鎌倉高校前・七里ヶ浜・稲村ヶ崎などが並んでいる。どこも大差ないようなものだが、日の出方向の海が多少なりとも多く開けていて、列車の到着が早く、駅から海岸までも近い鎌倉高校前駅で降りた。

鎌倉高校前駅から目と鼻の先にある七里ヶ浜にやってきたのは6時20分。名前通り幅広の砂浜がはるか遠くまで続いている。波打ち際も考えたが全体を見渡せる高台に陣取った。白みはじめた東の空を見やれば、淡い橙色と深い群青色の混じり合う幻想的な色をしている。

到着時に人の姿はまばらだったが、刻一刻と空が明るくなるにつれ、雨後の筍のように増えてきた。気がつけば人波に取り囲まれて身動きすらできない。見下ろす波打ち際にも人垣ができようとしている。こうなると移動することはできず寒さに耐えながら待つのみだ。

太陽が昇ってくるのは海を挟んだ向こうに横たわる三浦半島からとなる。江の島周辺からではどう転んでも三浦半島から昇ることになるのでこれは仕方がない。気がかりなのがその半島上に雲が広がりはじめていることで、意地の悪いことに時間と共に厚みを増している。雲を見つめてはやきもきする。

やがて日の出時刻を迎えたけど三浦半島に遮られるのですぐには見えない。それから数分した6時57分、ついに太陽が顔を出した。雲は相変わらず居座ってるが、幸運なことに三浦半島とその上に広がる雲の間にわずかな隙間がある。真っ赤な光が注ぎ込み、波打つ海面がキラキラと赤く輝く。海岸にはざわめきとシャッター音が広がった。

わずか3分ほどで太陽は雲に隠れていき人波は引いていく。場所探しと広がる雲で一時はどうなるかと思ったけど、最終的には全てがうまくいき、運に恵まれた初日の出となった。そして来年はきちんと日の出の方角を調べてから現地に赴こうと思った。

(2019年1月1日)

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