東京湾フェリーから眺める『2018年』最後の日没

平成最後の大晦日、今年最後となる日の入りを海の上から眺めようと、東京湾フェリーの乗り場がある久里浜行きの列車に揺られていた。東京湾フェリーは三浦半島と房総半島の間を結ぶフェリーで、東京湾の入口を横切るという航路のため、太平洋に沈む夕日をちょうど眺めることができるのだ。

久里浜がある三浦半島周辺は夕日スポットには事欠かないところで、日本一の夕日スポットなどとも言われる由比ヶ浜もあり、わざわざフェリーに乗る必要はないのだが、海岸から眺めたというのでは平凡なので、少しひねって海の上から海に沈む夕日を狙おうというわけだ。

東京駅から約1時間半、三浦半島の先端近くにある久里浜駅に降り立ったのは、15時を少し回ったところだった。空を見上げると先ほどまで雲はほとんどなかったのに、今になって急速に増えはじめていて不穏なものを感じる。雲か日没時刻をずらせるといいのだがそうもいかないので、とにかく挑戦するしかないと足早に久里浜港に向かった。

大晦日のフェリーといえば大混雑の長距離フェリーしか乗ったことがないので、同じように混雑していると想像してやってきたら、あまりにも空いていて拍子抜けした。駐車場には申し訳程度に車が並ぶだけだし、フェリーターミナルに入っても窓口や券売機で購入する人はおろか人の姿すらなかった。

720円という格安の乗船券を購入して2階にある待合室に上がる。おばさんが3〜4人いるだけで、この運賃でこの利用者数とか大丈夫なのかと思えるほどである。

16時頃になり乗船開始。船内は車の利用者があるため待合室よりは賑わっていたが、それでも空席が目立つことに変わりはない。座席はよりどりみどりで、寝転がっても誰も気にもしなさそうな空きっぷりである。

出港まで時間があるので暖かい船室で待機する。日中は高尾山に登ったりしていたけど食事らしい食事をしておらず空腹が気になりはじめた。とりあえず売店で名物という「よこすか海軍カリーパン」を買ってきて満たしておく。

16時20分出港。当然のようにその瞬間は甲板で迎えたが、周囲には若者を中心に数えるほどの人がいるだけで、わざわざ寒いところに出てくるような人は少ない。日没までは18分しかないので甲板で海を眺めながら過ごす。

他の人たちも同じような考えかと思いきや、寒風吹きすさぶなかで日没を眺めようなどという酔狂な人は私だけのようで、ぽつりぽつりと船内に戻っていく。たまに現れる人もいるけど寒さにすぐに引っ込んでしまう。気がつけば甲板にいるのは私だけとなっていた。

雲が消えていかないかと思うけど相変わらず空全体に広がっている。消えるどころか徐々に増えているようですらある。水平線に横たわる厚い雲を恨めしげに眺めつつ、ときどき腕時計に目をやる。

そして17時38分ついに日没時刻を迎えた。時間に合わせて雲が切れてくれるのではないかとか、水平線と雲の間に隙間ができるのではないかなどと、淡い期待を持っていたが若干赤く染まる雲があるだけで太陽の姿は全く見えなかった。

まもなく久里浜行きの僚船とすれちがうと、向こうは甲板上に10人くらいの人影があり、こちらに比べると利用者が多そうに見えた。

甲板は冷たい風がびゅうびゅう吹き抜けていき、指が動かなくなってくるほどで、もはやこうしていても仕方がないと船室に入った。風音やエンジンの響きのようなものがふっと消えて静かになると同時に暖かくて落ちつく。

ほどなくして金谷港が迫ってきたので再び甲板に出ると、夕闇の港は釣り人が何人かいる程度で寂しい空気が漂っていた。

下船してまずはフェリーターミナルで食事でもと思ったら、ちょうど営業を終了したところで何かがうまくいかない。久里浜と同じで利用者の姿はなく閑散としていた。

すっかり日が落ちて暗くなった中、最寄りの浜金谷駅に向かい、列車を乗り継いで東京に向かった。いったいなんのために房総半島までやってきたのやらだ。

(2018年12月31日)

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