目次
プロローグ
今回完乗の旅として選んだ先は、香川県の高松から、徳島県の徳島までを結ぶ高徳線だ。全長は74.5km、駅数は29駅と数日もあれば完乗できそうである。どちらかと言えば夏に乗りたい路線なので、春の今回は序盤の屋島までの予定だ。
高松
- 所在地 香川県高松市浜ノ町
- 開業 明治30年2月21日
2016年4月6日、午前7時前の高松駅にやってきた。四国の玄関口という事もあり、何度も訪れているので見慣れた景色だ。ここ数日パッとしない天候が続いていたので、久しぶりの快晴で朝日を浴びた駅舎にテンションも上がる。
高松城・玉藻公園
まずはウォーミングアップがてら、駅とは目と鼻の先にある、高松城の周囲を回ってみる事にした。高松は何度も訪れているにも関わらず、どちらかといえば通過点といった扱いで、市内をゆっくり歩くのは初めてかもしれない。
城の海側を堀沿いに歩いて行く。堀とは行っても海側を埋め立てた結果、堀のようになっているだけで、元々は城の石垣まで海が迫っていたという。ここには石垣だけでなく江戸時代から残る月見櫓がある。櫓とはいっても近くの丸亀城天守閣より、天守閣らしさを感じる趣のある建物だ。
城には趣があれど平日とあって通勤・通学の人たちが行き交い、バタバタとした慌ただしい雰囲気が落ち着かない。海の方に目をやれば宇野行きのフェリーが出港していく姿がある。
そのまま城の高松駅とは反対の側にやってくると、石垣の上を覆うように県民ホールがあり保存との兼ね合いなのだろうが何とも微妙な景観となっていた。
近くの東門前には堀を越える橋がかかり、橋の上からは
このまま城を一周して、高松駅側にある西門から入園しようと思ったのだが、琴電の踏切を渡った先の道路が凄い交通量で参った。おまけにこちら側は海側と違い歩道すらない。こんな所を歩くのはたまらないという訳で、引き返して先程の橋を渡り東門から入園する。
東門の所に受付があり、開園したばかりのようだ。玉藻公園の入園料は200円とお手軽価格で、ちょっとした時間があれば気軽に入ってみる事ができる。
入園すると
広場の中央には無料レンタルのゴザが沢山置いてあり、この快晴&桜の中で寝っ転がったら気持ちよさそう…。ではあるが、さすがにそこまではやらず天守台の方へと足を進める。
桜の馬場を過ぎるとすぐに天守台が現れ、背後には琴電の電車も見え隠れしていた。天守は取り壊されて現存しないが、風がなく鏡のような水面に映る天守台の石垣が美しい。
遠くから見るだけではなく天守台の上にも行ってみようという訳で、天守台や本丸へと渡る唯一の橋という
天守台は展望デッキとして整備されている。展望デッキというといかにも眺めが良さそうだが、これが大して眺めがいい訳でもなく早々と退散する。
その後は披雲閣庭園等をぶらぶらと見学して回り、8時半も過ぎたところで通勤通学の混雑も落ち着いただろうと駅に戻った。次の列車は9時16分発の三本松行きで、まだ時間があるので構内にある「連絡船うどん」で遅めの朝食にする。
朝からよく歩いたから肉うどんにでもするかと思ったが、ここはケチりつつも体に良さそうな390円のワカメうどんを選択した。
お腹も満たされた所で、いよいよ本日最初の列車へと向かう。高徳線の三本松行きは2番ホームからの発車で、この2番ホームというのが、1番ホーム先端にある切り欠きに作られた、改札から最も遠い不遇なホームである。
平日で9時も回ればガラガラだろうと思い乗車すると、意外にも座席は8割方埋まり混雑していた。ワンマン列車な上にすぐ下車するので、なるべく前よりの席に座って発車を待った。
昭和町
- 所在地 香川県高松市昭和町二丁目
- 開業 昭和62年3月23日
昭和町駅は住宅街の中に、ホームがポツンと1面あるだけの小さな無人駅で駅舎はない。高松駅で10分以上発車を待った上に、すぐに到着する1駅目の昭和町で下車するなんて自分くらいだろう、そう思ったが予想外に結構な数の下車があった。
列車から降りるとホームのベンチでは食事中の人まで居るし、駅の散策は後回しにして周辺の散策へと出かける事にする。
野球踏切
まずは何となく山側に向かって線路沿いに歩いて行くと、踏切脇に説明板が設置されているのが目に留まる。何だろうかと見てみると、この踏切が野球踏切という名前で、その由来が書かれていた。単なる踏切に説明板があるとか初めて見た気がするが、有名な踏切なのだろうか?
気になるので説明を読んでいると、踏切が鳴り始めてドキッとする。まもなく勢い良く特急列車が走り去っていった、時間的に「うずしお6号」だろうか。
肝心の「野球踏切」の由来の方は、近くの高校の野球部員が、練習場までの行き帰りの道として、この踏切を通っていた事にちなみ、「野球踏切」と命名したそうである。何というか余程名前のネタに困ったのか、他に利用者が居なかったのか…。
もし別な部活だったならどんな名前になったのだろうか、そんな事も考えつつ踏切を渡り先へと進む。しかし周辺は住宅地が広がるばかりで、これといった面白いものは見当たらず、結局これ以上の収穫はなく駅へと引き返した。
幸いホームには誰もいなくなっており、さきほどは見れなかった駅をゆっくり見て回る。途中でツカツカとホームにやってきた人が現れ、乗客かと思ったらホームのゴミ箱にゴミを入れて去っていった…。四国の駅はどこにでもゴミ箱があるが、こういう人がいるからなあ。
まだ時間があるので、先程とは逆の高松側へ向かって、駅前の大きな道路を歩いてみる。しかしこちらも特に面白そうな物は発見できず、次の列車に乗り遅れても大変だという事で駅に戻り、おとなしく列車を待つ事にする。自分以外にも2人現れて、結構利用者の多い駅だ。
やってきた列車は徳島行きの普通列車4323Dで、車内はさきほど以上に混雑していた。
栗林公園北口
- 所在地 香川県高松市中野町字貝の口
- 開業 昭和61年11月1日
ここは栗林公園への最寄り駅で、やはり栗林公園へ行くと思われる人達がドッと下車する。こちらは特に急ぐ訳でもないので、まずは人並みが去るのを待ってから、ゆっくりと駅を見て回る。
山すそにホームが一面あるだけの駅で、パッと見には山の斜面にあるのか、それとも高架上にあるのかわからない駅だ。ホームの端まで行くと、栗林へと向けて市街地を伸びる高架線がよく見えた。
駅から道路に出るには、ホームから山伝いに下っていく。下りきると高架下をくぐり、駐輪場を抜けてようやく駅前の道路と、いかにも後から無理やり駅を設置しましたという構造で、実際昭和61年の開業と新しい駅だ。
高架下には駅の入り口と並んで稲荷大明神があり、駅よりずっと目立つ存在になっている。それどころか駅名板が設置されていなければ、ここに駅がある事にすら気が付かないレベルに地味な駅だ。
栗林公園
駅名の通り栗林公園北口はすぐ近くで、ものの3分程で到着した。まずは入園券を購入しようと、2台並ぶ券売機に足を進める。すると窓口からこっちでの声がかかる、あの券売機は一体何のためにあるのだろうか。
入園するとすぐに桜並木のお出迎えで、ちょうど満開という事もありこれは見事だ。
近くの芝生広場ではあちこちにシートが広げられ、花見をしたり昼寝をしたりと、思い思いにくつろぐ姿が見られた。実にのんびりとした空気が流れていて、こちらもゆっくりと桜を眺めて歩く。
桜並木を抜けると反時計回りに園内を回って歩く。面白い形や、美しい形をした、木々や岩が並び被写体には事欠かない。人は結構多いのだが、公園自体が大きく広々としている事や、主に桜の付近に集まっているから、殆どの場所ではゆったりと見て回る事ができた。
桜も美しいが公園自体もよく整備されていてどこも美しい。剪定している人や池に入って草を取り除いている人等も見かけ、これを維持するのも大変そうだ。
途中で吹上亭なる茶屋があったので焼きだんごを1本購入して、湖畔のベンチに腰掛けひと休みする。このだんご結構大きくて食べ応えがあり、全種類食べたい所だが1本食べたら満足してしまった。甘味噌の加減も丁度良くてこれは美味い。
気がつけば入園してから1時間以上経過しており、ここはゆっくり見ていれば1日楽しめそうな場所だ。とはいえ今は次の駅が待っているので駅に戻る事にする。
ホームに上がると、ちょうど引田行きの普通4331Dがやってきた。相変わらず混雑する列車で、今度は高校生も沢山乗っているから、ますます混雑が激しくなっている。
栗林
- 所在地 香川県高松市藤塚町三丁目
- 開業 大正14年12月21日
混雑していて下車するのも一苦労だなと思ったが、栗林駅は有人駅という事で全てのドアが開き楽に下車できて助かった。幅広のホームには待合室が設置されており、上りだけながらエスカレーターもあった。そして何よりこのホームは3階部分という高い位置にあるため、市街を見渡せて眺めが良い。
2階部分に下りると、ここに改札や窓口が設置されている。改札を抜けるとさらに下に下りる階段があり、ここから外に出られる。1階部分にはうどん屋が営業しており、昼時という事もありスーツや作業服姿の人で賑わっていた。その一方でシャッターの降りたキヨスクの跡があり、何だか寂しい雰囲気も漂っている。
栗林散策
どこへ行こうかと地図を見るが、特にこれといった場所は見当たらない。周辺はオフィスや住宅ばかりが続いており、高徳線の中間駅で最も利用者が多い駅というだけの事はある。
突っ立っていてもしょうがないので、駅を出て高松方向へ向けて歩いてみる。すると全然観光する所も見当たらないが、「観光通り」という大きな通りに出て、ここを右折して、しばらく進むと琴電の踏切が現れた。
琴電の踏切は渡らないで、再び右折して高徳線の方へ戻っていく。近くに興照寺というお寺があったので寄ってみたが、住宅地の中にある近代的な寺で、一瞥して通り過ぎて終わった。さらに右折して結局周囲を一周する形で駅まで戻ってきた、春とはいえこれだけ天気がいい中を歩いていると汗が滴ってくる。
次の列車の時間も迫ってきたので、ホームに向かう。有人駅ではあるが駅員が改札に全然居ないから、改札は素通り状態で皆通って行く。
ホームにはエスカレーターを使って上がり、程なくして徳島行きの普通4333Dがやってきた。またかと言いたくなる位に混雑しており、次の駅で下車するのに前に移動するのは大変そうなので、最初から前に乗っておこう前方のドアに向かう。すると下車が終わるとさっさと前側のドアは閉められてしまい、運転手が後ろからと合図する。有人駅で下車はどこからでも良いのに、乗車はダメとはよくわからん。
木太町
- 所在地 香川県高松市木太町
- 開業 昭和61年11月1日
混雑する車内を何とか前方へと進み、本日5駅目となる木太町のホームに降り立つ。住宅と田畑が広がる中にポツンとホームがあり、すぐ脇にはそんなホームに不釣合いな程の、大きな駐輪場が設置されていた。
さてどこへ行こうかなという訳だが、栗林に引き続き地図を見ても周囲には、興味を引く場所がまるで見当たらない…。とりあえず駅の前後に川が流れているので、より大きそうな栗林側の川に向けて歩き出す。
詰田川と宝蔵院の渡し
15分ばかり歩いて詰田川という川までやってくると、思った以上に広い川だった。地図を見るとこの少し上流で、急激に細くなって消滅してしまうのが不思議な位だ。しばらく眺めていると、高徳線の鉄橋を特急列車が通過していった。
川伝いに高徳線の鉄橋までやってくると傍らに石碑が立てられていた。宝蔵院の渡し跡と刻まれているが詳しいことは分からない。
駅に戻ろうと適当な道を選んで歩いていると、道端にある小さな祠が目に留まる。すぐ脇に説明板が設置されており、一体なんだろうかと立ち寄ってみる。
説明を読むとこの祠は、新開水神社と呼ばれているようだ。何でもこの辺りは干拓地のため、井戸水も塩分の混じった物だったが、奥村家の井戸だけは美味しい水が湧き出していて、近隣の住民が皆もらい水に来ていたそうだ。そこで住民たちが感謝して、井戸の側に祭ったのがこの水神様という事だった。
ちなみにその井戸の方は、上水道整備後の昭和三十五年に埋められて現存しないそうだ。まさか唯一無二の井戸が消えて祠だけ残るとは、当時の人達は思いもよらなかっただろうなあ。
何だか初夏を思わせる陽気で、ぶらぶらと駅に向けて歩いていても汗が出てくる。駅近くにある狭い道路を歩いていると、何だか歴史のありそうな古い民家が建っている。昔は田畑の広がる中に、こういった家がポツポツと少しある程度の場所だったんだろうなあ。
何もなさそうな所でどうしようかと思ったが、思いがけず2箇所も昭和町の歴史に触れる事ができて、満足して駅に戻ってくる。するとタイミングよく、
屋島
- 所在地 香川県高松市高松町字帰来
- 開業 大正14年8月1日
久しぶりに観光地の雰囲気が漂う駅の屋島駅に到着する。駅舎内はきっぷ売り場も兼ねた地域振興スペースとなっていたが、何だか駅構内は全体的に寂れた雰囲気があり、昔は賑わっていました感が漂っている。
中高年のグループも一緒に下車したが、屋島山上へのシャトルバスまで30分以上あるので、タクシーを呼んで屋島へと行ってしまった。複数人だとタクシーにしても1人あたりは大した金額にならないから良いが、自分のように1人だととても使う気にはなれない。
シャトルバスの時間まで暇なので駅構内をぶらぶらしていると、特急列車2本に普通列車と、3つの列車が並ぶ賑やかな場面に遭遇した。高徳線は特急列車が毎時1往復程度走っており、大半が2両編成と短いながら、なかなかの特急街道である。
屋島山上
しばらくすると当駅止まりのシャトルバスがやってきて、どうやらこれが折り返しの屋島山上行きになるようだ。しかし行き先はJR屋島駅の表示のままだし、乗客どころか運転手すらどこへ行ったのか姿を消してしまい、乗って良いのか悪いのか迷ってしまう。
出発時刻も迫ってきたので乗車してみると、板張りの床が懐かしい感じのするバスだった。出発時刻を過ぎても車内には自分1人だけで、おいおい大丈夫なのかと思っていると、やっとで運転手がやってきて出発する。貸切り状態で何とものんびりした物だが、琴電屋島駅ではドッと乗ってきて賑やかになった。屋島へ行くには琴電利用の方が一般的なようである。
料金所を通過して屋島ドライブウェイをぐんぐん登って行く。右手には特徴的な形をした五剣山や、眼下に海を見下ろす景色が広がるが、左側に座っていて見にくくて残念。次乗る時は右側にしようなどと考えていると、あっという間に屋島山上に到着した。ここまで乗ってきても料金は100円と格安だ。
屋島ではまず八十四番札所の屋島寺へと行ってみた。朱色の門を抜けて本堂に辿り着くとここも朱色で、昨日訪れた金倉寺や善通寺とは随分趣が違う。その後違う門から出たが、こちらが山門のようで、何だか駅等から普通に歩いて行くと、山門以外から入って山門から出て行くパターンが多いような気がする。
屋島寺の山門付近には謎のオブジェが置かれており、周囲の会話からどうやら瀬戸内国際芸術祭の作品のようだ。ちなみに”猪おどし”という作品らしい。
屋島寺を出て屋嶋城跡とある方へ向けて歩いて行く。城は”屋島”じゃなくて”屋嶋”なんだな。
道路の両側には今時珍しい木製の電柱が並んでいて、取り付けられている蛍光灯といいなかなかいい味を出している。
屋嶋城跡がどこだったのかよくわからないままに、遊歩道を適当にずんずん進んでいく
いつの間にか一周して駐車場まで戻ってくる。シャトルバスまでは時間があったのでバス停脇にある土産物店を見て回る。
帰りのバスは座席が半分程度埋まる位の乗車率で、往路と同じく琴電屋島駅で大半の乗客が降りてしまい、僅かな乗客と共に屋島駅に戻ってきた。
時刻はまだ16時半なので、次の古高松南にも行けない事はないのだが、屋島までの方が何だかキリが良いのと、あちこち歩きまわって疲れたので今日はこれで高松に戻る事にする。
エピローグ
高松行きの4346Dに乗り込むと、もう高徳線の定番と化しているが混雑していた。ロングシート部分に空席を見つけて座って行く。屋島駅で特急うずしお20号をやり過ごすとまもなく出発して、各駅ごとに今日の出来事を思い出しつつ高松まで戻った。これで高松〜屋島間の上下線&全駅の完乗達成である。
高松駅に到着すると、あんなに晴れていたのにすっかり曇り空になっていた。手前の海水池は瀬戸内海から直接海水を引き込んでいて、波も人工的に起こすという凝りようである。
今日は色々な場所をゆっくり見て歩いた割に6駅と結構進んだので満足の1日だ。この後は今朝方見て気になった高松城の夜桜見物へと出かける。
(2016/4/6)
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