大阪〜九州の移動に名門大洋フェリーを利用してみた

名門大洋フェリー乗船記

大阪から九州へと移動するにあたり初めて名門大洋フェリーを利用した。いつもはほぼ同じ航路をたどる阪九フェリーか鉄道利用ばかりだ。それが今回は早朝一刻も早く九州入りしたかったので、他より早い5時30分に到着する名門大洋フェリーを利用することになった。

名門大洋フェリーは大阪南港と新門司港の間を2往復しており、乗船するのは大阪南港を17時に出港して新門司港に5時30分に到着する1便船。ちなみに2便船は19時50分出港の8時30分に到着する。急ぎでなければ2便船の方が利用しやすい時間帯で船自体も新しいので魅力的だが仕方がない。

という訳で2017年8月20日の14時ごろ、フェリー乗り場の最寄り駅にやってきた。その名もフェリーターミナル駅というそのものズバリな駅名だ。その高架上のホームからはすでにフェリーの船体が見えていた。連絡バスに乗らないと大変な事になるフェリーターミナルも多い中で実に便利な立地である。

フェリーターミナル駅 (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
フェリーターミナル駅

出港まではまだ3時間もあるせいか私の他にフェリー利用者の姿は見当たらない。それどころか人の姿自体をほとんど見かけない。混み合う大阪環状線や地下鉄を乗り継いでやってきたので、どこか不安を感じるような人気のなさである。

駅からフェリーターミナルに向けては屋根に壁付きの歩道橋が整備されていた。これなら雨の日でも楽なものだが、夏場の日中とあっては熱がこもっていて暑かった。少しずつ大きくなるフェリーの姿を眺めつつ進んでいくと歩道橋内を飛び回るスズメに遭遇した。所々で開けられた窓から入り込んで出られなくなった様子。

大阪南港フェリーターミナル (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
大阪南港フェリーターミナル

フェリターミナルの2階に設けられた待合室に入ると冷房が効いていて涼しい。中央部にざっと100人は座れそうなたくさんの椅子が並ぶ。その周囲にはゲーム機や自販機が並び、乗船口の近くには小さな売店もあった。先客は乗り慣れた様子のお年寄りが数人程度とあって、広い空間が一段と広く感じられた。

15時ごろになると室内の照明やテレビの電源が入り甲子園の実況が聞こえてきた。乗船客も徐々に集まってきて座席も少しずつ埋まっていく。到着した当初はあまりに人気がなくて場末のフェリーターミナルといった様子だったが、このころになると方々で歓談が始まり随分と賑やかになった。

乗船口の近くでは折り畳みテーブルが広げられ何か手続きをする人の姿が見られる。事前に何か手続きでも必要なのだろうか。勝手がよくわからないので念のため行ってみたらツアー客の受け付けだった。行き先はハウステンボスや軍艦島といった長崎方面が多い。長崎まで行くとなると北九州に早朝到着するこの便は都合がいいのだろう。

フェリーターミナル待合室 (Canon PowerShot G9 X)
フェリーターミナル待合室

16時になるといよいよ乗船が始まった。といっても場所が指定されているだけに自由席のフェリーのように乗船口に殺到する訳でもなく、ポツポツと待合室の席を立っていく感じでのんびりしたものだ。場所取りのために先を争って乗船する光景を見慣れていると、これだけで随分と優雅な船旅に見えてくる。

乗船口から外に出ると待合室が2階にあることもあり、そのままポーティングブリッジを歩いて乗船する、のかと思いきや一旦岸壁上に降りてしまった。そして改めて岸壁上からフェリーの乗船口を結ぶ、長い上り勾配のある通路を通って乗船となった。

一旦降りた岸壁上から乗船 (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
一旦降りた岸壁上から乗船

船内に入るとまず何はともあれ自分のベッドに向かう。当初は寝るだけだし雑魚寝のエコノミー(2等室)でいいやと思ったが、予約画面で位置を指定しようとしたところ、ほぼ満員といってよいほど混雑していることに気がついた。こんなギチギチの雑魚寝は御免だと千円ばかり多く払って、2段ベッドのツーリスト(2等洋室)にしておいた。

やってきた2段ベッドのズラリと並ぶ大部屋にはまだ人気はなくひっそりとしていた。私の指定しておいたベッドは部屋の中ほどにある上段で、ここだけ向かい側のベッドが空席だったので選んだ。上段といっても昔ながらの梯子で昇降する訳ではなく階段なので楽なもの。頭上はぶつけるほど低いけれど寝るだけの場所と考えればこれで十分だ。

ツーリストの2段ベッド (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
ツーリストの2段ベッド

さてまずは大浴場に向かう。乗船直後の空いている時にさっさと入っておこうという訳だ。このベッドに荷物を放置しておくのは少し心配なので、貴重品はまとめて浴場のロッカーに入れておくことにして準備をしてから向かった。

大浴場はツーリスト区画のすぐ目の前という便利な立地にある。空いたものだろうと脱衣場に入ると予想に反してトラックの運ちゃんらしき人たちで大混雑だった。これは予想外の混雑だがここまできて戻るのも面倒だし、後になるともっと混雑するかもしれないので、そのままカラスの行水で済ませてきた。

部屋に戻ってくると先ほどとは打って変わって通路も歩けないほどの混雑となっていた。隙間を縫うようにして自分のベッドまで戻る。すると閉めておいたはずのカーテンが開け放たれているではないか。これはいったいどうしたことかと思ったら何とまさかのダブルブッキングだった。周囲のベッドでもそこかしこで同じ状況の様子。フェリーでダブルブッキングとは初めての体験で面白いことになってきた。

予約システム上ではほぼ満席だったしどうするのかと思っていたら、船員がやってきて近くにある同じツーリストの部屋への移動をお願いされた。未使用の部屋だそうで今と同じ番号のベッドを使ってくれということだった。これはいったいどういう部屋なんだろうか。よくわからないが移動の手間が増えただけで何も得するようなことはなかった。

シンプルな構造のツーリストベッド (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
シンプルな構造のツーリストベッド

さて落ち着いたところで出港時刻も近づいていることだしデッキに出た。ベッドのある部屋は船体中央部のため窓もなく薄暗かったが外は青空が広がり眩しいほど。すぐとなりには四国に向かうオレンジフェリーや同じ名門大洋フェリーの2便船が停泊していた。

定刻通り出港するとフェリーターミナルの建物が少しずつ小さくなっていく。周囲には船体にまとわりつくように無数のかもめが飛び回っていた。冬場などは寒さに震えながらデッキに立つが、さすがこの季節は海をわたってくる風が心地よく、いつまでもそんな景色を眺めていられた。海面からはかなりの高さがあるが、手すりから海面を覗き込んでいると波しぶきが顔にあたってくる。そのヒヤッとした感触がまた気持ち良かった。

しかし沖合に出て徐々に速度が上がってくると、デッキ上には台風のような強風が吹き抜けるようになってきた。こうなるとエンジン音は騒々しく座れる場所もほとんどないデッキからは少しずつ人が去っていく。しばらくしたら物好きが数人残るのみとなった。

遠ざかるフェリーターミナル (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
遠ざかるフェリーターミナル

私も一旦は船内に戻るものの個室ならともかく、テレビもないベッドでは寝る意外には何もすることがない。仕方がないのでデッキやパブリックスペースを行き来して過ごす。夕方になり日も傾いてきたころ前方に明石海峡大橋の姿が小さく見えはじめた。徐々にその形がハッキリしてくると再びデッキ上には人が集まりはじめた。

いつもこのあたりをフェリーで通過するのは遅い時間帯や、時間が早くても冬場で日没が早かったりと日没後ばかり。それが今回は夏場ということに加えて出港が早かったためまだまだ明るい。おかげで海上から太陽に照らされた明石海峡大橋というのを初めて目にすることができた。ライトアップされた姿も良いが夕日に照らされた姿もまた美しい。

明石海峡大橋は遠くにその姿が見えたときには待てど暮らせど近くならない。ただ実際には結構な速度が出ているので、いざ目前まで迫ってくるとあっという間に下をくぐり抜けて後方に遠ざかっていく。そしてそれと同時に人波も一気に引いていった。

明石海峡大橋の下をくぐる (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
明石海峡大橋の下をくぐる

しかしここで船内に引っ込むのはまだ早い。海の姿が美しくなってくるのはこれからだ。日没からほんの数十分の間だけ、空は赤や青の複雑に混じり合った色に染まり、その色合いが刻々と変化していく様を楽しめる。いわゆるマジックアワーと呼ばれる時間帯だ。沿岸の家々には明かりが灯りはじめ、昼と夜の境目という景色が広がる。

フェリーの周囲にはいくつもの小さな船が行き交っており、マジックアワーの中をすれ違ったり追い越したりする様子は幻想的だ。そのまま夜の景色に変わるまでぼんやりとデッキに佇んでいた。

日没はデッキ上で迎える (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
日没はデッキ上で迎える

19時も回って船内に戻ると空腹感も出てきたので食堂に向かった。先ほどまでは満席といってよい混雑ぶりだったからどうかと思ったが、この時間になるともう空席も散見されるようになっていた。メニューはバイキングで1,500円だった。そんなに食べないので高いような気もしたけど、明日の朝食無料券も付いてくるそうなのでまあいいか。

品数は結構あるので3回ばかり取りに行って一通り食べたらもう満腹になった。バイキングというと少しでも元を取ろうと頑張ってしまうがそうそう食べれるものではない。私には阪九フェリーの好きな料理を取って会計するカフェテリア方式の方が合っている。味の方はまあ普通で可もなく不可もなしといった印象だった。

後はもうやることが尽きたのでベッドに戻って早々と就寝。

夕食バイキング (Canon PowerShot G9 X)
夕食バイキング

翌日は寝たのが早かったせいか4時前には目が覚めた。室内はすっかり寝静まってひっそりしていたので、物音に気をつけながら出発の準備に取り掛かった。個室と違ってこういうところは神経質にならざるをえない。ただまあ完全に仕切られたベッドなだけマシで、雑魚寝にしなかったのは大正解だった。

レストランの朝食は4時半からだったので、その10分ほど前に向かうともう10人くらいが並んでいた。メニューはパンと野菜サラダ、それと飲み物などが何種類かある程度と大したものではない。まあ300円で食べられるのだから妥当なところか。

朝食バイキング (Canon PowerShot G9 X)
朝食バイキング

素早く平らげると早朝の海を眺めようとデッキに出た。もう5時なので明るいと思いきや真っ暗でまだ深夜のよう。いったいどこの街なのだろうか遠くには街の明かりが浮かんでいた。昨日は立っているのも大変なくらいの強風が吹き付けていたが、今朝は不思議と風らしい風が感じられず、なんだかねっとりとした生暖かい朝であった。

下船前とあってかデッキを訪れる人は少ない。たまに姿が見えてもすぐに船内に戻っていってしまう。そんな中でデッキの片隅では60代くらいのおばちゃんがひとり、景色を眺めるでもなく延々とスマホをいじっていた。

早朝のデッキはまだ暗かった (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
早朝のデッキはまだ暗かった

接岸までゆっくりとデッキ上から眺めていたところだが、連絡バスに乗り継ぐ必要があるので港が近づいてきたところで船内に戻って下船口に並ぶ。ロビーにはパラパラと下船客の姿があったがまだ空いていたので列の先頭付近に並ぶことができた。

下船の時は一斉に降りていくので乗船の時のようにゆっくりはしていられない。新門司のフェリーターミナルを突っ切り外に出るとそのまま連絡バスに乗り込んだ。何だかんだで連絡バスには一番乗りだった。バスは1台だけだったので立ち客まで出た満員で出発となった。

連絡バスは小倉駅まで行くが私は途中の門司駅で下車した。新門司港から門司駅までは結構遠くて到着したのは6時ごろだった。大半の乗客は小倉駅まで行くようで下車したのは5,6人だったため、混雑した車内から降りるのに一苦労だった。

門司駅前に到着した連絡バス (FUJIFILM X-T1 + XF16mm F1.4R)
門司駅前に到着した連絡バス

こうして予定通りに早朝の門司駅にやってくることができた。この時間に到着すれば現地のホテルに泊まったかの如く1日を有効に活用できる。ただ朝はどうも苦手なので特別な理由がなければもっと遅い2便船や阪九フェリーがいいかなやっぱり。

(2017/08/20)

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